代替医療のトリック Simon Singh 新潮社 2010-01 by G-Tools |
原著のタイトルは “Trick or Treatment”。
こっちの方が気が利いてる。
本書で扱われている代替医療は多岐にわたるが、大きく取り上げられているのは鍼、ホメオパシー、カイロプラティック、ハーブ医療。
サイモン・シンらしく非常に隙のないアプローチとデータでそれらの限界(あえて嘘とは言わない)を科学的に検証し、いっぽうでそれらがどれほど社会に受け入れられているのかも。
ホメオパシーのばかばかしさ、カイロプラティックの危うさが非常に強く印象づけられている。
それは冒頭に歴史的な事実として瀉血(血を抜く、という治療法)と壊血病(船乗りがビタミンA不足でおかしくなりながら死んでいった)の例が提示されていることによる部分が大きい。
ただ、現時点で科学的に証明された事実だけが事実でない、という点は頭の片隅において読まないと”科学的”すら否定してしまいそうなので注意。
本作はちょっとヒートアップしていて所々、誘導ともとれる文の書き方になっている
“代替医療は(鍼が一部の痛みに効くというごく一部を除いては)プラセボ以上の効果がない”等の書き方は本書から導かれる内容ではあるが、代替医療否定の前提があって書いているように読めてしまってちょっとさめてしまう。その「ごく一部」は今の(日本の)使われ方からすれば不実でもないし例外的とも言えない、と思う。
本書を通して読むと、アーサー・C・クラークの第3法則
充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない
が本当なんだなぁ、と実感する。
水に優しい声をかけるときれいな形に結晶するっていういわゆるニセ科学が普及するのも分かる気がする。セレブリティと言われる人たちがが(お金を引き寄せるにせよファンを引き寄せるにせよ)意図を持ってこういう情報を使っているのがどれほど罪深いことなのか、考えて貰いたい。
(たとえば先述の水の結晶の話”自らの伝言”を初期に広めたのはヨーコ・オノなのだ。)
西洋医療に失望して怪しい医療に気持ちが揺らぐ前に、本書を読んでみることをおすすめしたい。
巻末についている代替医療便覧は非常に多くの代替医療が紹介され、分析されている。所々皮肉も込めて書かれていてとても面白い。
せっかくインフルに食われているときに読んだので地元のホメオパス(ホメオパシーの施術者)に行ってみようかと思ったのだけれど体のだるさにめんどくさくなってやめてしまった。
どういう判断をされたかな。